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放射線の基礎知識Radiation basics

目次

はじめに

1. 基礎知識

1.1 放射線

1.2 放射能と放射線

1.3  原子の表記法

1.4 物理的性質と化学的性質

1.5 原子核の崩壊について

1.6 半減期について

1.7 放射性物質

1.8 単位について

1.9 線量換算

2. 放射線測定の解析方法

2.1 検出効率

2.2 データ解析

2.3 統計誤差と正規分布

2.4 検出限界

 

3. 身の周りの放射線

3.1 KとCsについて

3.2  農作物の測定結果 

3.3 自然放射線量 

3.4 健康と放射線 

参考文献


はじめに

東京電力福島第一原子力発電の事故を受けて、福島県三春町と東北大学理学研究科の有志や学生とで2011年6月20日に、三春「実生」プロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトでは、これまでに、町民、特に学童の放射線被ばく量を一年間にわたり測定し続け、予想される事故直後から現在、将来にわたるまでの外部被ばく量概算を算出しました。幸いにも、今回の事故による被ばく量は、三春町では健康に大きな被害をもたらすレベルではありませんでした。そこで、食物摂取による内部被ばくの把握と、風評被害を払拭する為の活動として、三春町で生産された農産物25品目の、134Cs,137Cs,40Kの3核種毎の放射線量を測定することにしました。

我々の研究室では、原子核や地球上には存在しないハイパー原子核を、加速器と呼ばれる大型の装置で作り出し、それらからの放射線を精度よく測定することで、原子核やハイパー核の構造を調べています。放射線の一つであるγ線を測定するために、非常に純度の高いゲルマニウム結晶組み込んだ検出器を実験では多数使います。今回の農産物の放射線測定には、実際に実験で使用している感度の高い検出器で測定しています。

第1章では、放射線の基礎知識を学んで頂くことが目的です。第2章では、測定において重要となる考え方を解説します。測定した値の信頼性は、検出器の性能も重要ですが、それにもまして、その検出器の校正のされ方や、バックグラウンドの見積もり、解析方法等複数の要素を含みます。また、検出下限限界の考え方についても詳しく解説しています。第3章では、今回測定した野菜の測定結果を示します。この測定値を自然界に存在する放射線量と比較してもらうことで、食物中の放射線量が安全なレベルかどうかを、読者自身で判断する材料としてもらえることを願っています。福島第一原発事故以前も以後も、我々は自然環境からの放射線にさらされて生活しています。その量は住む場所によってまちまちです。三春町ではこの事実を一般の方に知ってもらうために、三春町の学童がこの一年間身に着けて来た個人用のバッジ式線量計を、全国の寺院の僧侶に同じように着けてもらい、三春町が線量を定期的に読み出して公表するという活動を、今年5月から始めました。このパンフレットでは、その第一回目の測定の結果を公表する許可を頂きました。

風評被害は、福島県に留まらず生産者に大きな損害をもたらし、大自然の恵み、命を粗末にしてしまいます。このパンフレットを通して、読者の放射線への基礎知識、特に我々の身の周りに元々存在する放射線への理解と関心を高めてもらい、放射線を「正しく怖がる勘」を養って頂く一助となれば幸いです。

最後に、今回の農産物の放射線量測定者であり、このパンフレットの執筆者である学部4年生の、風評被害で困っている方々を応援したいという熱い思いが読者の皆さんに伝わることを願っています。

平成24年7月29日

小池 武志

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1. 基礎知識

1.1 放射線

 「放射線」とはそもそもどのようなものなのでしょうか?

代表的な放射線として、レントゲン撮影で使われるX線[1]のほかに、α線[1]やβ線[1]、γ線[1]、中性子線[1]があります。 これらは電離放射線と呼ばれ、原子から電子を弾き出す‘電離’を引き起こすことができます。放射線の種類やその放射線のエネルギーによって電離の強さは違いますが、この能力のせいで「放射線」は体に害を与えることがあります。[2]



[1] 放射線の種類の説明

・X線:原子核の周りをまわっている電子由来の電磁波

 ・α線:核反応により原子核から放出されるヘリウム(4He)原子核

 ・β線:原子核から放出される電子

 ・γ線:原子核のエネルギーの変化に伴って放出される電磁波

 ・中性子線:原子炉や加速器において核分裂や核融合の際に発生する中性子の粒子線

[2] 原子が電離されることによって体を構成している分子が壊れてしまうため。

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1.2 放射能と放射線

 「放射能」とは、物理的には「放射線を出す性質または現象」のことをいいます。つまり、「放射能」とはX線などの放射線を指すのではなく、放射線を出す性質や現象そのものを指します。また、「放射性物質」という言葉もありますが、これは放射能を持つ物質のことを言います。しかし、一般的には、放射性物質や放射線のことを「放射能」と呼ぶ表現も広く浸透してしまっているので、文脈に応じてきちんと使い分けができていればいいと思います。

放射能と放射線の関係を例えるならば、豆電球が光を出す能力と、出された光になります。豆電球が放射性物質であり、光を出す能力が放射能です。豆電球から出る光が放射線です。

 出された放射線は体に直接あたらないように防護することは出来ます。放射能を持った物質(放射性物質)は集めて保管することができ、これを除染と言います。放射性物質は、後述する半減期に沿って減少するのを待つ以外、人工的に放射線物質でなく無害にする現実的な方法はありません。また、微生物等の生物を介しても放射性物質の量を減少させることは物理的に不可能です。

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1.3 原子核の表記法

 ここでは原子核の表記の仕方について説明します。ある特定の原子核を表すときには、元素記号、原子番号、質量数の3つを用いて下の図のように書きます。原子番号は省略されることもあります。元素記号は陽子の数のみで決まります。    

                                                      

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 1.4 物理的性質と化学的性質

 同じ元素で中性子の数が異なるものを同位体と呼びます。例えばCs(セシウム)の同位体には133Csや134Cs、137Csなどがあり、そのうち133Cs以外は放射線を出す放射性同位体です。134Csや137Csは核実験や原子炉内での核分裂で生成されたものです。同位体には放射線を出す出さないなどの物理的性質の違いはありますが、ほかの物質との反応性などの化学的性質は全く同じです。生物は化学的性質の区別はできても、放射性同位体(物理的性質)を区別することはできません。

 化学的性質が似ているため、K(カリウム)やCa (カルシウム)を吸収する際に同族のCsやSr (ストロンチウム)を誤ってKやCaとして吸収してしまうことがあります。I (ヨウ素)は人にとって必要不可欠な元素です。天然に存在するヨウ素の同位体は127Iで、放射線は出しません。今回の福島第一原子力発電所の事故では、大量の放射性131Iが放出されました。ヨウ素剤 (ヨウ化カリウム)を、事前に飲むことで体内に安定なヨウ素を十分に蓄積させ、放射性ヨウ素が体内に吸収されるのを防ぐことができます。残念なことに今回の事故で適切なヨウ素剤の服用を指示したのは、福島県三春町のみでした。

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1.5 原子核の崩壊について

 高校の物理や化学で勉強したように、身の回りのものは様々な原子の組み合わせでできており、さらに個々の原子は原子核(陽子と中性子からなる塊)とその周りに存在する電子によって構成されています。原子核の半径が10-14のスケール(1cmの1兆分の1)であることからかなり微小な物であることが分かると思います。

 

 

さて、その原子核には「不安定な原子核」があり、別のより安定な原子核に変わろうとします。この変化に伴い、先に挙げた放射線を放出することになります。このように、放射線を放出し、別の種類の原子核に変わることを“壊変”といいます。α線を出す崩壊をα崩壊、β線を出す崩壊をβ崩壊と呼びます。

図3にある通り、137Cs (セシウム)の崩壊は2パターンあります。この2パターンの崩壊では、崩壊後の137Ba (バリウム)原子核のエネルギー状態が異なります。崩壊の際には 94.6%の確率で、β線を放出しながら高いエネルギー状態の137Ba原子核へと崩壊し、その後低いエネルギー状態へ遷移する際にγ線を放出します。低いエネルギー状態の137Baへ直接崩壊することもあり、その確率は5.4%です。この確率を分岐比と言います。

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1.6 半減期について

 1.5では、原子核は崩壊して別の種類の原子核に変わることを簡単に説明しました。このとき、最初にある原子核がN 0個あって、それが崩壊によって半分の個数になるまでにかかる時間を“半減期”といいます。式(a)は今ある原子核の個数Nと時間tの関係を示した式です。                         

T1/2:半減期

 N0:最初の原子核の個数

T1/2(半減期)は原子核の種類によって値が異なるため、その原子核が半数まで減少するのに要する時間が異なります。具体例としては、今回の福島第一原発事故で環境に放出された放射性物質の数がN0となります。放出から現在までの時間がtとなります。

  この式は、化石や土器などの年代測定へ応用されています。自然の生物圏内では14C (炭素14)の存在比率が一定であり、生きていると常に摂取しているため動植物の内部における14Cの存在比率は、死を迎えるまで変わりません。死後は新しい炭素が補給されなくなるため存在比率が下がり始めます。この性質と14Cの半減期が5730年であることを利用して年代測定が可能となります。例えば、ある試料のもともとの量の4分の1しか14Cが含まれていないのであれば、その試料の年齢は11460年であることが分かります。

 

図4には137Csと134Csの減少の様子が示してあります。半減期による違いが分かります。

図4

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1.7 天然放射性物質

 自然界に存在する放射性物質には、地球が誕生した時からずっと存在しているものや、それらから崩壊してできたもの、また宇宙線によって絶えず生成されているもの(14C)などがあります。

 中でも40Kは半減期が12.8億年と長く、地球誕生時のものが大量に残っています。上で述べたように同位体の化学的性質は同じなので、40Kは他のカリウムの同位体と同じように体内に取り込まれます。カリウムは体に必要不可欠な元素なので40Kもたくさん体内に存在し、内部被ばくの主な要因ですが、生命はこれを克服して、今日に至っています。40Kは全身に存在しているので、40Kによる内部被ばくは身体の部位によらず年間0.17ミリシーベルトと見積もることができます。

他にもRn(ラドン)やBi(ビスマス)といった崩壊を何回も繰り返す途中でできる放射性物質があります。これらはウラン系列やトリウム系列、アクチニウム系列、ネプツニウム系列といった系列に沿ってできる放射性物質です。図5に例としてウラン系列の崩壊の様子を示しておきます。

宇宙からの放射線と地球大気上層の空気が核反応を起こすことにより、3He三重水素(トリチウム)や14Cといった放射性物質も自然界で新たに作られています。

図5 ウラン系列



α崩壊…中性子2個と陽子2個からなるα線を放出し、原子番号が2、陽子数が4減少する崩壊の事です。

β崩壊…原子核に対して1個電子や陽電子が出入りして、質量数は変わらずに原子番号が1ずつ増減する崩壊をまとめてβ崩壊と呼びます。



  図6にはBG(バックグラウンド)を示しました。試料を測定していなくても我々の周りの環境からのγ線が測定される事が分かります。図5に示した核種から放出されたγ線のエネルギーを見れば、その核種の存在が分かると思います。

6 環境からくるγ放射線(バックグラウンド)のエネルギースペクトラム 

2012年7月に東北大学理学合同B棟で超高純度ゲルマニウム結晶検出器を用いて測定。ゲルマニウム検出器は解像度が抜群であるため、原発由来の134Csと自然環境からの214Biをはっきりと分離できる。(拡大部分参照。)

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1.8 単位について

・ベクレル(Bq)・・・[個/s]:単位時間(1秒)あたりに崩壊する原子核の個数。この値が大きいものほど多くの放射線(β線やγ線など)を放出していることになります。

・グレイ(Gy)・・・[J/kg]:単位質量当りの物質が放射線によって吸収したエネルギーを表します。

・シーベルト(Sv):人体への放射線の影響の大きさを表す単位。放射線の種類やそのエネルギー、人体の各部位 (臓器など)のエネルギー吸収のしやすさによって値が違います。γ線の場合、1 Gyは1 Svに相当します。

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1.9 線量換算

 放射線の単位について、よく耳にする単位のSvとBqの関係について説明します。    

 Bqは物質がどのくらい放射線を出す能力を持っているか、つまり放射能の単位です。Gyは物質に吸収された放射線のエネルギー (吸収線量)の単位です。この二つの量は純粋な測定値で、客観的な値です。これに対してSvは放射線が生体に対してどれくらい影響を与えるかを表す、あくまでも目安にすぎません。放射線の種類や、年齢、臓器ごとにどのくらい影響を受けるかは違います。それぞれの違いを考慮して人体への影響を見積もる必要があります。定量的にそれが実際どれくらい違うのかは、未だ分かっていないこ部分もあり、今後の研究でより正確に把握できるでしょう。

 BqからSvに換算するとき、これらを考慮した値、実効線量係数というものをかけます。下の表は成人が放射性物質を経口または吸入摂取した場合の実効線量係数です。この換算をすることによって何Bqのものがどのくらい体に影響あるかを見積もることができます。

たとえば合計で100[Bq/kg]のCs (137Cs:134Cs=1:1)を含んだ米150gを1年間食べ続けた場合の預託実効線量[3]

となります。この値は胸部レントゲン撮影1回分の放射線量と同じくらいです。23ページの表の2を参照して下さい。



[3]預託実効線量

生涯の健康リスクを評価する量として預託実効線量というものが用いられます。人体の組織に取り込まれた放射性物質は、その半減期および代謝による体外排出により、時間とともに減少します。食品摂取後長時間にわたって人体が受ける内部被ばくの影響を評価する規準として、摂取後50年間に受ける線量を最初の1年間で受けたとして用います。よって、実際の内部被ばく量よりもかなり安全サイドに立った見積もりとなっています。


 表 1:実効線量計数

核種

半減期

経口摂取 (Sv/Bq)

吸入摂取 (Sv/Bq)

40K

131I

134Cs

137Cs

90Sr

12.8億年

8.04日

2.06年

30.1年

29.1年

6.2×10-9

2.2×10-8

1.9×10-8

1.3×10-8

2.8×10-8

3.0×10-9

7.4×10-9

2.0×10-8

3.9×10-8

1.6×10-7

 ※元素記号でK (カリウム)、I (ヨウ素)、Cs (セシウム)、Sr (ストロンチウム)

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2. 放射線測定の解析方法

 2.1 検出効率

 一般的に検出器は放射性物質が出す放射線をすべて検出できるわけではありません。そこで、どのくらいの割合で検出できているか(検出効率)を考える必要があります。検出効率に影響があるのは(1)検出器自体の検出効率、(2) 立体角の影響などです。

(1) は放射線が検出器をすり抜けてしまった場合などの影響で現れます。

(2) の立体角というのは、検出器の位置の影響で現れます。放射線はすべての方向に等しく出ていると考え、検出器にどれくらい放射線が入るかを考えます。



これらの計算を正確に行うのは難しいので、今回の測定ではあらかじめ放射能が分かっている放射線源を用いて測定を行い、得られた測定値とシミュレーションの結果とを比較することで検出効率を算出します。検出効率は各種の出すγ線により異なり、今回の測定における検出効率は以下の通りです。

 40K…0.0087 

134Cs…0.0101 (分岐比含む)

137Cs…0.0141

  上の数字の意味は、カリウム40から出たγ線1000個の内、我々の検出器で検出されるのは、平均8.7個だけということになります。どの検出器を使っても、同じ試料を測定したら同じ放射線量が検出されるべきです。検出器によって値が大きく違ってしまうのは、この検出効率が正しく校正されていないことが主な原因です。

 

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2.2 データ解析

 測定したデータから実際に単位質量当たりのベクレル数[Bq/kg] を計算します。放射線が単位時間あたり何回出たかを考えるために測定時間 tで割ります。100% の確率でそのエネルギーのγ線を出すわけではないので、その確率(分岐比)で割ります。最後に、検出効率で割り、重さで割ると、単位質量当たりのベクレル数[Bq/kg]が求まります。

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2.3 統計誤差と正規分布

 検出器等によって得た値をどのように扱い、実験結果(測定値)を出すかを紹介します。

  ある値(例えばBq数など)を実験で測定する際、そこには必ず誤差が付きまといます。誤差とは、測定によって得た値と、真の値とのずれのことで、誤差が小さいほど測定の精度がよいといえます。誤差の中には、その測定装置に特有なもの、実験をする際の環境に依るもの等がありますが、これらは改善が可能です。ところが統計による誤差(ゆらぎ)という、測定したい現象に確率が絡んでくる場合に生じる誤差は統計誤差と呼ばれ、測定されているもの、そのものに由来します。

 例えば1.8にある通り、Bq数とは単位時間当たりに崩壊する原子核の個数でしたが、原子核の崩壊は確率によって表わされる(つまり、ある時間内に必ず1個崩壊するなどとは言えない)ので、Bq数を測定する際には統計による誤差、すなわちゆらぎがでてきます。従って、1回の測定で真の値が得られたかは分かりませんが、実験結果(測定値)に測定のゆらぎを考慮した範囲に真の値があると考えられます。

 次に、測定で得た値の中から、真の値と思われるものを選び出すために、ゆらぎの大きさを定義する正規分布(ガウス分布とも呼ばれる)というものについて説明します。

 何回も同じ測定をして、得た測定値の数が十分多い場合、横軸を各実験で得られた測定値、縦軸をその測定値が得られた確率(その測定値を得た回数を測定回数で割ったもの)としてグラフにすると、原子核の崩壊の場合は、式(b)や図8で表される正規分布という分布に近づくことが知られています。

式(1)や図8を見ると、左右対称な山の形の分布になっていることがわかります。このことから、山の頂上のx座標は測定値の平均値であると言えます。式(1)において、aは平均値のx座標を表しており、真の値に一番近い値だと考えられます。また、σは標準偏差と呼ばれる値で、正規分布が平均値から、どのくらい広がりを持っているか、つまりどの位ゆらいでいるかを表しています。σが大きいほど、山の幅が大きく、ゆらぎが大きくなるということです。さらにσは、真の値が正規分布の-σからσまでの区間(図8の色の薄い部分)に存在する確率が約68%(つまり-σからσまでグラフを積分すると、約0.68になります)、-2σから2σまでの区間(図6の色の薄い部分と濃い部分)に存在する確率が約95%という意味も持っています。

測定した値から、実験結果Zの値を決定する際は、これらを用いて、

z=a±σ(単位)

などと表します。この場合は、真の値がa からa の中にある確率が、約68%(精度約68%)となり、 と置き換えれば、真の値がa からa の中にある確率は、約95%であるということができます。 

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2.4検出限界

 ある物質について放射線量を測定する際、もし測定で得た放射線量の値が小さかった場合、それが実際の放射線による場合なのか、それとも誤差によるもので、実際には放射線量が検出器で検出できないほど少ない、という場合なのかを区別する必要があります。その際の目安となるのが検出限界(この語は、検出限界という考え方だけでなく、検出限界という数値を表わす場合があります)です。

今回は3σ法というものを使って、測定したい試料に放射能を持つ物質が含まれているかどうかを判別したので、この方法について説明します。

 試料の放射線を測定するとき、図6で示したようにBG (バックグラウンド)も含まれて測定されます。するとBGのゆらぎが生じてしまいます。3σ法はBGのゆらぎの範囲を3σと決め、それ以上はBGのゆらぎではないとする考え方です。これは、±3σの区間に存在する確率が約99.7%なので、測定された値が3σより大きいとき、その値がBGのゆらぎである確率が0.15%ほどしかないからです。例えば、BGを測定したとき平均が100 Bqでσ=10のとき、試料を入れて130 Bqと測定されたとします。すると測定された130という値がBGのゆらぎである可能性は0.15%となり、130-100=30 [Bq] は誤差ではなく、試料に含まれていた値として考えることになります。また、別の試料を入れた場合では110 Bqが測定されたとします。この場合は100+3σ=130より小さい値が測定されたため不検出(ND)となります。

 しかし3σ法は試料のゆらぎを考えていません。よって上の例の用にBGが100 Bqで試料が30 Bqのとき、試料のゆらぎにより50%の確率で測定値が130より小さい値になり、不検出 (ND)になってしまいます。したがって、不検出だからと言って試料中の放射性物質がゼロということではありません。あくまでも、測定装置の検出下限よりも含まれている放射性物質の量は少ないと言っているだけです。

しかし、試料のBq数が検出限界より大きい場合は図10のように試料のゆらぎを考えても検出限界を超えるので、検出されたと判断することができます。

以上のことを踏まえBq数を測定します。BGの平均を0 Bqとおき、検出限界のベクレル数ndを求めてみると式(c)が求められます。

 

(nbはBGのベクレル数、tsは試料の測定時間、Mは試料の質量、Brは放射線遷移の分岐比、εは検出効率)

つまり検出限界を下げるにはBGのベクレル数を小さくする、試料の測定時間を長くする、試料の質量を増やす、などがあります。ただし試料を入れる容器の大きさによって詰められる質量が制限されることが多いので、通常は測定時間を長くとることで検出限界を下げます。



厳密には

(tbはBGの測定時間)

と表せるが、tb>>ts、ts>>3を考えると式(c)になることが分かる。

3. 身の周りの放射線

3.1 今回測定した放射性物質

40K (カリウム40)

カリウムは、動植物にとって必要不可欠な元素であり、われわれの人体中や自然界にも広く存在しています。カリウムの大部分は放射線を放出しない安定な39Kですが、放射性の40Kがカリウム全体に対して0.0117%存在しています。
     自然放射性核種である40Kは、人体中に約4000ベクレル(Bq)[4]存在しています。飲食で人体中に取り込まれる40Kは、1日あたり約50ベクレルですが、人体中の余分なカリウムが排出されるのに伴って同量が排出されるため、体内の40Kは一定に保たれます。この40Kによる年間の被ばく線量は、0.17ミリシーベルト(mSv)です。ちなみに、身の回りにあるカリウムの例として農業で肥料として市販されている塩化カリウム(KCl)を測定してみました。結果は、15000[Bq/kg]でした。

 

カリウムの同位体

存在比(%)

39K

93.258

40K

0.0117

41K

6.7302

 

11 カリウムの同位体存在比



[4] 体重60kgの人の体内について考えます。

Kは体内に0.20%含まれており、そのうちで40Kは0.0117%含まれています。従って、40Kは

含まれていることになります。

また、40K 1gあたりの放射線強度は

ただし、

 よって、  

となり人体中に約4000[Bq]存在していることがわかります。



  ・134,137Cs(セシウム)

  134,137Csは主に原発や核実験によって作られる同位体です。化学的性質はどちらも同じです。半減期は134Csが2.06年で、137Csは30年です。134Csは、大気中で宇宙線とキセノンの反応でも生成しますが、生成量はきわめて少ないです。

     放射線を出す核種によって体内に吸収された後の振る舞いは異なります。例えば、セシウムは筋肉に集積しやすい特徴があります。CsとKは化学的に似た振る舞いをするため、体内での挙動も似ていると考えられています。両者ともβ線とγ線を放出しますが、放射線のエネルギーが異なる等により被ばく線量が異なります。

   

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3.2  農作物の測定結果

理学研究科では、三春町でとれた野菜やコメに含まれる、134Cs、137Cs、40Kの放射線量をゲルマニウムで詳細に測定しました。測定した25品目のうち、検出下限値を超えた品目は、8品目でした。いづれも、国の基準値1キログラム当たり100ベクレルを大幅に下回っています。自然界に存在し、我々が食物から常に摂取している40Kと比べて見て下さい。



  

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3.3 自然放射線量

 放射性物質は自然界にも存在します。前述した40Kは私たちが普段食べている野菜などにも含まれています。こういった人間の活動によらない自然から受ける放射線を自然放射線と言います。全世界で1年間に自然から被ばくしている平均自然放射線量は図9のように推定されています。全世界平均で年間2.4mSv、原発事故前の日本における値は1.4mSvとなっています。

 被曝には外部被曝と内部被曝があります。内部被曝とは経口摂取した放射性物質などで人体内部から被曝することです。外部被曝とは人体表面から直接に放射線を照射され被曝する事です。外部(体外)被曝は放射線を受けているときに限られますが、内部被曝は放射性物質が体内にある限り続きます。

 自然放射線からの被曝量で最も大きな割合を占めているのは空気中のラドンを吸い込むことによる内部被ばくです。ラドンは希ガス元素の1つで、崩壊の際に主にα線を放出します。空気中においてはα線は数センチで止まってしまうため、体に到達することは少なく、到達しても衣服や皮膚で止まってしましますので、害はありません。屋外空気中のラドン濃度は1立方メートル中に約5ベクレル程度です。

 ほかにも岩石等に含まれている放射性物質からの大地放射線や、宇宙から絶えず降り注いでいる宇宙線によって生物は絶えず放射線を浴びています。

図12:自然放射線量の内訳

 

 自然放射線の量は地域によっても差があります。図12には日本各地の宇宙線と大地からの放射線の量を示してあります。関西地区では、放射性同位元素を多く含む深成岩が地表近くまで迫っているので、大地からの放射線が多くなる傾向があるようです。

 

図13:

日本の自然放射線量 福島県三春町提供 平成24年7月26日現在。全国103箇所の寺院が参加。83箇所から個人線量計を一時的に回収し、平成24年5月から約2か月間の積算外部被ばく量を読み出したもの。値は各県での平均値。

 

 

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3.4 健康と放射線

 ・人体への影響

放射線が体に当たるとある確率で細胞の分子の状態が変わり、細胞が傷ついたり死んだりします。我々の体はその細胞をきちんと修復できる機能を持っており、細胞の修復に失敗するとその細胞を自滅させるといった何重もの防御システムを備えています。ところが一度に大量の放射線を受けると修復しきれず、その細胞や臓器に障害が生まれます。したがって、放射線量は被ばくした積算量だけはなく、その量をどのくらいの時間をかけて浴びたかも重要になります。例えば、12ページで、100Bq/kgのお米を一日150g一年間食べ続けた場合の預託線量は0.09ミリシーベルトと算出しました。表2にを見ると、この値は胸部X線検診の2回分にあたります。この場合、浴びる時間はお米の場合と違って、ほぼ瞬間的です。

人体の中でも放射線の影響を受けやすい部位とそうでない部位があります。影響を受けやすいのは小腸、造血器官、生殖細胞などの細胞分裂が盛んな部分です。逆に細胞分裂があまり盛んでない筋肉や神経細胞などはあまり影響を受けません。子どもや胎児が影響を受けやすいのは細胞分裂が盛んであるからだと言われています。その一方で、先ほど触れた細胞の修復機能は子供の方が高く、損傷を受けやすい分、修復も早いことで相殺されて、放射線から受ける影響は大人と変わらないという見解もあります。

放射性物質を体内に取り入れた場合、放射性物質の種類によってたまりやすい位置が違います。たまりやすい臓器と放射性物質の対応は表1の通りです。

 

 

 

場所

元素

甲状腺

I(ヨウ素)

Sr(ストロンチウム),Pu(プルトニウム),Ra(ラジウム)

Rn(ラドン),Pu(プルトニウム)

肝臓

Th(トリウム)

筋肉

Cs(セシウム)

表 1:たまりやすい臓器と元素

 

 受けた放射線量と人体への影響への関係を表2に載せました。

 

表 2:放射線とその影響

 

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 参考文献

高エネルギー加速器研究機構 暮らしの中の放射線

公益財団法人体質研究会

放射能基礎統計学

社団法人日本分析化学会

緊急被ばく医療研修

 

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