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全国寺院103箇所によるOSL線量計での環境放射線測定結果と考察 
東北大学大学院 理学研究科 小池 武志

「実生プロジェクト」では、福島第一原発事故の外部放射線被ばくへの影響を正確に把握する目的で、平成23年7月14日から現在に至るまで、OSL線量計を義務教育にある児童(希望者)に配布し、継続的な測定を行なっている。これまでの測定結果と平成23年度5月に行なった町内全18か所の幼稚園、保育園、小学校、中学校の校庭の土壌測定結果をもとに、事故直後(平成23年3月16日)からの三春町における外部被ばく量積算予想曲線を得た。この予想では、OSL線量計での読み出し値が最も高かった児童の、事故から10年間の自然環境からの放射線と131I,134Cs,137Csの壊変過程で放出される放射線を合わせた積算被ばく量は、24mSvと予想される。三春町においては、40歳未満に適切なタイミングで安定ヨウ素剤を配布した経過もあり、事故直後の131I吸引による内部被ばくは極めて少ないものと予想される。

三春町での測定結果を判断するレファレンスとして、全国の寺院に協力をお願いして、三春町の学童が着用しているものと同じOSL線量計を住職やご家族に着用してもらい、普段の生活における各県の環境放射線からの外部被ばく量測定に着手した。平成24年5月に、依頼をご快諾くださった寺院103箇所にOSL線量計を配布し、8月10日までに92箇所から一時回収を行ない、第一回目の測定を行なった。その都道府県別の測定結果を図1に示す。表示の測定値は県での平均である。北海道以外は2箇所の平均であり、その2箇所の値もかなり違う県があるため、必ずしも県内全域の平均値にはなっていない可能性もあるが、一つの資料として参考にしていただければと願う。色分けに特別な根拠はなく、0.5mSv/年で便宜的に分別したものである。

図2は、92箇所の測定値の分布をグラフにしたもの(上段)である。赤い棒は、高い値から、いわき市、福島市、南相馬市、会津の福島県4か所の測定値を示す。紫色の曲線は正規分布で、分布の広がりの程度を示す標準偏差(σ)は200マイクロシーベルトで、平均値は約800マイクロシーベルトであった。この分布は、事故前の2002年に測定された149000個のレファレンスOSL線量計の測定(参考文献1参照)から得られた分布に類似している。ちなみに、この2002年の調査では、福島県での平均年間外部被ばく量は、0.73mSv/年 (σ=0.14mSv)であった。 従って、同じ福島県内でも、南相馬市と会津在住の住職におかれては日本での自然環境放射線による外部被ばくの範囲内であり、他県の同レベル地域在住者への健康被害が報告されていない現状を見ると、健康への影響は無視していい範囲と判断できる。いわき市、福島市においては、原発事故による外部被ばく量の増加が明らかである(7σ)。今後、福島第一からの放射性物質の放出がなければ、この数値は半減期にしたがって減少し、全国分布に近づいて行くことが予想される。図2.下段には、カナダ各地における環境放射線からの外部被ばく量の分布を示した(参考文献2参照)。母集団の数は少ないが、一箇所平均に比べて分布から顕著に外れて高い地域がある。これは、上段の状況と類似している。しかし、上段は原発事故によるもので今後時間と共に中段の分布に近づいて行くのに対して、下段は地形の岩石の分布影響によるものであり、変化しない点で異なっている。したがって、世界的に見れば、いわき市や福島市の事故後の外部被ばく線量は、自然界に起こりうる地質や地形による変動の範囲を超えないものであり、今後徹底した個人レベルでのモニタリングを行なえば、特別な努力を払わなくても福島県の多くの地域で事故前の生活レベルを回復できるものと考察される。国民参加型による個人被ばく線量のモニタリングを全国展開し、現状の正確な把握と情報公開を進めるべきである。一人一人の放射線への意識を高め、除染の要不要、あるいは効果的な除染の進め方と指針が与えられ、風評被害の軽減に有効であると考える。

全国寺院103カ所によるOSL線量計での環境放射線測定結果 (PDF 79.0kb) (2回目)
全国寺院103カ所によるOSL線量計での環境放射線測定結果 (PDF 72.0kb) 
※この測定結果は「実生プロジェクト」において測定されたデータです。

参考文献
小林 育夫 光刺激ルミネセンス(OSL)個人線量計による線量特性評価および環境線量測定の応用に関する研究

博士論文 (2003);Ikuo Kobayashi et al, "The environment dose measurement using the OSLdosimeter",International Congress Series 1276, p305-306(2005).

Canadian Nuclear Safety Commission: http://nuclearsafety.gc.ca/eng/readingroom/